岸田総理の年頭記者会見で、①意欲ある個人に着目したリスキリングによる能力向上支援、②職務に応じてスキルが正当に評価され、賃上げに反映される日本型の職務給の確立、③GXやDX、スタートアップなどの成長分野への雇用の円滑な移動について働く人の立場に立って、三位一体の労働市場改革を加速していくと述べていました。
働く人にとって、賃上げは嬉しいものですが、それと同時にいよいよ本格的に自分自身の価値を高めることが求められ、キャリア変革期に入った感がありました。
健康寿命も延び、定年を超えてもなお働き続ける人も多く、従来の定年までのキャリアパスを考えるだけではなく、生涯のキャリアプランについて私たちは真剣に向き合うことが必要になる時代になったというべきでしょうか。
今回は、今後のキャリアパスのあり方、変わるキャリアパスをタレントマネジメントでどう仕組み化していくか、について解説します。
キャリアパスとは何か?-タレントマネジメントとの関連
キャリアパスとは、英語でCareer=「キャリア」、Path=「道」と表記するように、「キャリアを得るための道」のこと。目標とするポジションやキャリアに向かって、必要なステップを踏んでいくための順序や道筋を意味します。
では、キャリアとは何でしょうか。
・過去から将来の長期にわたる職務経験やこれに伴う計画的な能力開発の連鎖を指すもの(厚生労働省)
・個人の仕事に関わる、生涯にわたった成長と適応を目的とした自己開発の連鎖(中央職業能力開発協会)
・人が生涯の中で様々な役割を果たす過程で、自らの役割の価値と役割との関係を見出していく連なりや積み重ねが、「キャリア」の意味するところ(中央教育審議会)
・仕事も含めた人生全般を意味する言葉であり、その人自身の価値観や生き方に深く結びついている言葉(日本キャリア開発協会)
・生涯において個人が果たす一連の役割、およびその役割の組み合わせ(ドナルド・E・スーパー)
・単なる職業、職務、進路ではなく、相互に作用しあい影響しあう人材のさまざまな役割を包括する概念(サニー・ハンセン)
キャリアの定義にもいろいろあります。従来は仕事=キャリアと捉えてきましたが、生涯を通じて仕事・成長の連なり、様々な役割に対して、自身で意味づけ、自身の価値観を結びつける人生や生き方そのものという考え方に変わってきています。
キャリアの考え方が変化するに伴い、キャリアパスも会社に勤めている間に積み重ねていくものから、生涯の目標に対し、仕事、生活の中でどうキャリアを自身で意味づけ、積み重ねていき、進んでいくものと捉え方が変化しています。
タレントマネジメントではキャリア(役割や職務、職位)を可視化し、それに紐づくスキルや能力、経験やレベルを設定するスキルマップを策定は必須のプロセスです。ひとつひとつのキャリアが明確になるからこそ、キャリアパスを構築でき、社員自ら目標とする姿、キャリアの積み重ねを思い描くことができます。
タレントマネジメントで変わるキャリアパスのあり方
「キャリアパス」と似ている言葉として、「キャリアデザイン」や「キャリアプラン」があります。キャリアプランやキャリアデザインは、働く一人一人が自分自身で考えるものであり、一つの企業の中だけにとどまるものではありません。
それに対して、キャリアパスは、主に企業側が社員に提示するものです。ある職位・職務に到達するまでの道すじを示したものであり、基本的には一企業の中で働き、成長することを前提としています。
またキャリアパスと一緒に提示されることが多い「キャリアマップ」は、キャリアパスで設定した職位、職務を地図にしたものです。主にその職場における役職、レベル、最終的なゴールなどを明示します。ゴールとなる階級に至るまでの複数のルートを部下に伝え、それに合わせた活動を考えてもらうのが、キャリアマップの目的となります。
タレントマネジメントでは、導入時に従業員情報の見える化を行い、職務や役割の洗い出し、それに付随するスキルの洗い出しを行い、レベルを策定します。そのプロセスで一緒にキャリアパス、キャリアマップも作ればいいじゃないかとお思いかもしれませんが、そこで急ごしらえのものを作ってしまうと暗黙知で積み重ねられたキャリアパスとのギャップ、育成体系とのずれが生じてしまいます。
キャリアパスを策定するメリットとしては、キャリアパスがあることで社員にとって目指したい姿や目標が具体的になり、どのような業務で経験を積めばよいのか、どのようなスキルや資格を身につければそのポジションに到達できるのかが明確になることで、社員自身のモチベーションアップにつながります。
一方、デメリットとしては、キャリアの選択肢や自由度を狭めてしまう可能性があることです。つまり、キャリアについて特定の「道」を提示するため、それ以外の道の選択肢が減ってしまうことを意味します。それが原因でモチベーション低下につながってしまうこともあります。
日本型の職務給(日本版ジョブ型雇用制度)の確立が今後の人材戦略において必須となる中、タレントマネジメントで職務の定義を行い、見える化をする(ジョブディスクリプション)ことにプラスし、キャリアパスやキャリアマップ、そして研修マップを連動させ、キャリア開発の指針をつくっていくことが企業の成長と個人の成長を結びつける大きなカギと言えます。
また、社員にとっても、キャリア開発に対する考え方をアップデートしていく必要があります。これまでは企業が研修や資格取得を支援し、社員は年次や職位に達したら受講するというどちらかといえば受け身のキャリアアップの方法をとってきましたが、今後はキャリアパスやキャリアマップを元に、自らが目指す姿、目標に対し、どの研修を受講し、資格を取得するのか、意味づけを自らで行いながらキャリア開発を行うキャリアオーナーシップを持つことが求められます。
会社と個人の成長を同期するとともに、キャリア開発の責任者は社員本人で、広げる努力が必要になってくる時代に突入していきます。
そのような働き方、キャリア開発の方法が変革していく中で、企業が組織のビジョンや目標とリンクしたキャリアパス・キャリアマップを明示することの重要性がわかると思います。タレントマネジメントの一環として、社員が自身のキャリアパスを描き、プランニングしていき、成長のPDCAを自律的に回していけるような仕組みづくりが必要となってくるでしょう。
タレントマネジメントの仕組みとしてのキャリアパス
人事戦略であるタレントマネジメントでは、「働いている社員の能力やスキル、適性を発揮してもらう」という方針の下、様々な人事業務の手法を組み合わせ実行します。タレントマネジメントを中心に多くの人事施策を構築するには、集めた社員の情報を吟味し、どの情報を連携させていくのかをあらかじめ考えておく必要があります。
タレントマネジメントの導入ステップについては、「タレントマネジメント導入に押さえておきたい3つのステップ」、従業員情報の基本要素について「改めて押さえておきたいタレントマネジメントの基本」で詳しく解説していますので、併せてご覧ください。
導入時に集めた社員の情報を人材育成、特に社員自身がキャリアオーナーシップを持ち、キャリア開発を行ってもらうためには、スキルマップ(≒ジョブディスクリプション)、キャリアマップ、研修マップを提示し、社員ひとりひとりが目指すキャリアパスを自ら組み立てられる仕組みづくりが重要です。
仕組みづくりのプロセスは企業によって、順番は変わりますが、以下を参考に自社の現状と照らし合わせてください。
- スキルマップの策定
スキルマップを策定することが、どの社員が保有するスキル、能力や資格、経験年数やレベルを把握する大前提になりますので、現場の力を借りて、策定します。一度作って終わり、ではなく、新規事業や新しい案件など、新しく増えた役割や職務があれば、更新します。
- キャリアパス、キャリアマップの策定
キャリアパスを策定するにあたり、社員の中から、ある役割で経験豊富、かつ高いレベルで職務を遂行している人をキャリアモデルとし、今までの経験やどのようにキャリアアップしてきたのかヒアリングします。それをヒントに、キャリアパスを組み立て、現場のマネージャーやキャリアモデルにレビューし、固めていきます。経験年数や取得すべき資格、キャリアを積み重ねる道すじをまとめ、キャリアマップとして見える化を行います。
- 研修マップの策定
キャリアパス、キャリアマップを元に、会社が準備すべき研修、eラーニングなど自己啓発できる環境を整理し、研修マップを策定します。特に会社が提供する研修は、従来、会社や上司が指示して受講させることがほとんどです。かといって、いきなり研修マップを元に本人の立候補で進めると受講者が集まらない、予想以上に集まる、予算を超えてしまうといった懸念点も考えられます。そのため、期初の目標設定やキャリア面談といった上司と部下が面談をする機会を利用し、本人のキャリアパスを考慮しながら、上司が部下の目標達成に向け、研修受講、自己啓発の方法について話し合ってもらいます。
上記の3つのマップが浸透するには時間が必要かもしれません。単独でキャリアパス制度を入れている企業も多くありますが、タレントマネジメントの仕組みの中で効果的にキャリアパスを組み立て、キャリアオーナーシップを持った社員が活躍できる場、機会を考えることが最適な配置や組織編成にも波及していきます。
タレントマネジメントのシステムでキャリアパスを支援する機能があります。システム選定の際にその機能があるかどうか調べておきましょう。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
日本型の職務給の確立という賃金にも大きな影響を及ぼす波が2023年から押し寄せてきます。従来の年功序列型の賃金制度では難しかった、若い世代が自らキャリア開発を行い、ポジションを積極的に獲得し、賃金アップを目指しやすくなります。またリスキリングや成長分野への雇用流動化が進み、安定型の雇用市場も変わってくると予想されます。
そうなると、企業は安定した給与、福利厚生の充実といった雇用条件では採用時に選ばれなくなる可能性もあります。自社では、どういったキャリアパスを準備し、仕事を通じて、こういった経験を積むことができ、成長できるのかを提示できなければ、採用のみならず、所属する社員のエンゲージメントを下げることになりかねません。
タレントマネジメントで社員の情報を収集することができますが、情報を活かすためにも、個人の成長を会社の成長とリンクさせるためにも、会社におけるキャリア形成、開発がより一層、重要なカギを握ります。キャリアパスを策定することはその一歩です。魅力ある企業とは何か、自社内で見直すきっかけとして考えていきましょう。
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