タレントマネジメントとiCD

前回のブログ「タレントマネジメントとITSS」では、ITSSの概要とタレントマネジメント導入時の落とし穴について解説しました。

ITSSやその他のスキル標準から派生し、タスクとスキルの2つのディクショナリに整理されたi コンピテンシ ディクショナリ(以下、iCD)が公表されてから、情報システムを利活用するユーザー企業、システムを構築するベンダーの垣根を超え、多くの企業に活用されています。

今回は、iCDに着目し、その概要、タレントマネジメントでの活用のヒントについて解説します。

iCDの概要-タレントマネジメントで活用する前に

IT業界のスキル標準は、2002年に公表されたITスキル標準(以下、ITSS)以後、組込みスキル標準(以下、ETSS)、情報システムユーザースキル標準(以下、UISS)が独立行政法人情報処理推進機構(IPA)や関連団体により、スキル標準を公表、改訂が行われています。

これら3つのスキル標準は、ユーザー企業とベンダー企業というビジネスの形態や専門領域ごとに分けられ、単独で活用されていました。2008年10月に3つの人材類型と6つの人材像を定義、その人材像に即したキャリアと求められるスキルを示した「共通キャリア・スキルフレームワーク」(以下、CCSF)第一版が公表されました。その後、2012年に追補版として、 第一版で整理された共通の「知識体系」に加え、3つのスキル標準それぞれが備えているコンテンツを、「タスク」「職種/人材像」「スキル/知識」を軸に整理し、それぞれ「タスクモデル」「人材モデル」「スキルモデル」として体系化を行いました。

CCSFをさらに発展させ、2014年にiCD試用版が公表され、パブリックコメントや産業界における実証実験などを踏まえ、2015年6月に正式版を公開されました。

iCDの大きな特徴は、3つのスキル標準やCCSF、情報処理技術者試験や様々な知識体系、プロセス体系を参照し、タスク(求められる機能や役割を「課される仕事」)とスキル(タスクを支える能力(スキル・知識))に分類、整理したタスクディクショナリとスキルディクショナリの2つで構成されていることです。

また、ディクショナリ(辞書)と表記されている通り、活用する企業が自社のビジネス戦略、人材戦略から求められる機能、役割を定義し、そのタスク、スキルを整理する中でこの2つのディクショナリを参照し、必要なタスク、スキルセットを選択できます。

スキル標準、特にITSSでは、スキル熟達度、達成度指標からそのレベルを7段階で設定されていましたが、企業規模の違いでこれらの指標に達しない、レベルが高すぎるというデメリットがありました。iCDでは、そのレベル設定も企業によって柔軟に設定することができ、あくまで参照モデルとしてのディクショナリであり、活用方法や範囲などは各企業の実情に応じてカスタマイズすることが前提となっていることが最大の特徴であり、魅力でもあります。

iCDの構造、活用イメージについては、以下、「iCD導入ガイドブック i コンピテンシ ディクショナリ理解編」をダウンロードください。

iCDをタレントマネジメントで活用するヒント

ITSS同様、iCDも人材戦略を実現する手段ですが、人材戦略実現の第1段階としてタレントマネジメントがあり、そのプロセスの中で、スキルの見える化の段階でiCDの出番です。
スキルの見える化については、「タレントマネジメントにおけるスキルの見える化とは?」に詳しく解説しているので、そちらをご参照ください。

企業は事業を継続させるために、経営目標を計画し、それを達成するための経営戦略や人材戦略を考えます。そしてそれに則り、経営目標を達成するために重要な組織、人材の役割を決定していくために組織の改編や人材の配置、育成や採用、評価を行うのが本来の流れです。

そのため、経営目標や戦略が明示されている事業計画を考慮せず、手段であるタレントマネジメント、iCDをただ適用してしまうのは失敗のはじまりであることを再度認識することが重要です。

人にかかわる新しい考え方は最終的に評価に結びつき、報酬につながることから警戒感を持たれる分野です。多くの人事担当者が経験したことがある現場からの抵抗ではないでしょうか。

では、どうすれば抵抗ではなく、理解してもらい、Win-Winの関係で活用できるのでしょうか。

  1. 経営層とのコミットメント

タレントマネジメントやiCDをいった新しい考え方を人材戦略や人事施策にいれようとするとき、経営層が納得せず、進められないことが起きます。それは、人材への投資に対し、明確な成果が提示されないことにあります。せっかく運用までこぎつけた段階で「やっぱりやめようか」と経営層からストップがかかることも想定されます。

そのためにもタレントマネジメントやiCDを入れたら、すべてOK、いいことだらけというメリットだけではなく、導入へのデメリットもきちんと説明することが重要です。タレントマネジメントやiCDの成功事例も説得材料のひとつですが、そのまま適用してもうまく行く保障はないことも含んでおいた上で説得する道筋を事前に準備しておくことです。

自社の現状と経営目標を達成した未来とのギャップ分析、その中から打つべき最適解としてタレントマネジメント、iCDがあるということ、自社が解決すべき課題に対して、タレントマネジメントやiCDを適用することで期待される成果を明確に見える化し、説明を行う必要があります。

  1. 現場との協業

活用することが決まったら、まずは現場のマネジメント層を集め、経営層と握った内容を丁寧に説明し、懸念点や疑問点をヒアリングします。その中で、A:理解して協力もしてくれる、B:理解はしたがまだ懐疑的、C:理解するよりもとにかく反対、と主観的でもいいので、ある程度ゾーニングします。

あまりにもCが多い場合は、AとBの組織から部分的に適用できないか検討します。Cのマネージャーも反対する理由は様々です、根気が必要ですが、なぜ反対するのか理由をしっかりと聴き、現場の課題に向き合い、解決していくためにどうすれば協力してもらえるかの解を探していきます。

マネジメント層でもその部門のトップだけではなく、リーダーや次世代のトップ候補にも声をかけ、新しい取り組みに前向きな人を人選します。

プロジェクト方式で、人事だけではなく現場を巻き込み、一緒に自社の人材を考える場を設け、未来に向け、目指す人材像や必要となる人材の要件を整理していくと、現場との乖離がなく、共通言語で人材について認識を合わせることができます。

  1. 丁寧な説明と根回し

タレントマネジメントやiCDを活用し、新しい人事施策を企画し、運用に向けて動き始めるときには、社員に対し、導入の経緯や目的、得られる効果や変更点を説明する必要があります。

このときに人事だけが説明せず、上記のプロジェクトのメンバーであるマネージャーや経営層にも登場してもらい、全社一丸となって経営目標を達成するための新しい取り組みであることを強調してもらうように調整します。

現在、放映されている大河ドラマでは、並み居る御家人たちを納得、説得するためには、主人公は幼なじみや旧知の仲の人間に、わざと反対させ、その意味や目的を説明する場を作り、想定される反対意見の回答を事前に準備しておくという手がよく使われています。同じようにとはいきませんが、味方であるマネージャーやリーダーに根回しをしておき、社員に事前情報を伝えてもらい、興味をもってもらう機会をつくるなども効果的です。

最終的には、経営層、マネジメント層、何より人事担当者が最後までやり遂げる強い信念を持ち、進めるかが重要です。根性論、精神論にも聞こえますが、信念をもって、上記の3つを論理的に推進していき、着実に前に進めることが大切です。

タレントマネジメントもiCDも運用が重要

人事施策、人事制度は策定した後の運用が8割と言われるほど、運用によってその後の成果も大きく変わります。とはいえ、実際には運用を開始してみないと分からない「不確実な要素」が数多くあります。

そもそも人材にかかわる課題であること、多様でばらつきの大きい人の認知能力やコミュニケーション能力に依存するものであるため、人にかかわる不確実性を完全に排除することはできません。これらの不確実要素をうまく織り込んだ人事制度を設計することができれば一番ですが、一方で、「走りながら修正する」というテクニックを身に付けておくことも大変重要です。

外部、内部要因による経営環境の変化に即して、企業は経営目標や戦略を見直すことがあります。タレントマネジメントやiCDの導入時に設定された人材戦略上の課題がそれに伴い変わっているにも関わらず、人事施策は以前の課題、目標のまま進めており、当初期待された成果もそのままでは、経営目標の達成には寄与できません。

こうした状況の変化を常にウォッチし、人事制度設計のときに考慮した前提条件が変化していないか定期的に検証することによって、「目指す姿」に近づけていく努力が不可欠です。

経営目標や戦略が見直されるタイミングで人材戦略上の課題、人事施策の目標も見直し、それによってとるべき手段も改善させるというプロセスを運用設計時に組み入れておきましょう。

まとめ

いかがでしたでしょうか。

ITSSやiCDは優れたタスク、スキルの参照モデルです。特に今回ご紹介したiCDは、タスクとスキルが連携しており、タレントマネジメントの導入プロセスであるスキルの見える化においてその威力を発揮します。

とはいえ、万能ではないため、自社にフィットしない場合や適用が限定的になる場合もあることを念頭に、どこをどう活用できるのか、活用することで自社の課題解決に有効なのかという視点でまず判断し、必要に応じてディクショナリを取り入れてみましょう。

iCDはIT業界だけではなく、農業分野を手始めに他の業界にも波及し始めています。ITSSからiCDへの置き換えも容易になるフレームワークやジョブ型マネジメントに関する資料やサービスも提供されています。ひとつの手段、ツールが視点や視座を変え、変化していますので、ご興味のある方は、ファインドゲートまでお問い合わせください。

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