タレントマネジメントを導入することで得られる効果のひとつとして、「従業員情報の見える化」があります。
個人に関連する生年月日や勤続年数といった人事労務に必要な属性はもちろんですが、特に重要なものは、メンバーひとりひとりのスキル、保有資格や業務経験、現在担当しているタスクや役割といった業務遂行に必要な能力に関する情報です。
蓄積したデータを目的に即して分析、評価することで、個人、組織としての力量が可視化され、初めて採用や人材育成、最適な人員配置、人事評価といった人事施策へ活用することができます。
今回は、タレントマネジメントで個人、チームのスキルや能力をどう見える化するのか、について解説します。
目次
タレントマネジメントでスキルを見える化する①~スキル/能力の違いを知る~
「スキル」と「能力」は英語では「skill」と「ability」と訳されます。それぞれの日本語の意味を調べてみると、スキル(skill)は、「手腕、腕前、技量、(訓練・熟練を必要とする特殊な)技能、技術」として訳され、能力(ability)は「できること、技量、力量、才能」と訳されています。
似ているような言葉ですが、能力(ability)は、単体ではなく訓練や経験を経て蓄積した知識(knowledge)とスキル(skill)を使い、総合した力と考えるとしっくりきます。英英辞典では、skillは、「a particular ability」と表現され、能力の一部分をスキルが担っていると考えられます。
能力をどう捉えるのか、さまざまな議論や研究の成果がまとめられ、いくつかの「能力モデル」として、世の中に広まっています。ここでは代表的な能力モデルについてご紹介します。
■社会人基礎力:多様な人々と仕事をしていく上で必要な基礎的な能力(3つの能力、12能力要素)。2006年に経済産業省が提唱し、2018年に個人のライフステージの各段階で活躍し続けるために求められる力を「人生100年時代の社会人基礎力」として新たに定義
■KSA・KSAOs:企業で求められる能力(Knowledge、Skill、Ability、Others)
※Aは、Abilityではなく、Attitude(態度)とするものもある
■カッツモデル:管理職に求められる能力(テクニカルスキル・ヒューマンスキル・コンセプチュアルスキル)
■氷山モデル:人の特性を水面上(目に見える特性:スキル、知識など)・水面下(目に見えない特性:モチベーション、価値観や性格など)の二軸で分類する考え方
■ビッグファイブ:人の性格を分類したもの(外向性・情緒安定性・誠実性・協調性・開放性)
■PM理論:リーダーシップ行動を分類したもの
■21世紀型スキル:グローバル時代に必要とされる汎用的な能力。国際団体「ATC21s」が提唱
カッツモデルや氷山モデルは、その図とともに目にしたことがある方も多いのではないでしょうか。能力モデルも時代とともに変化し、最後の21世紀型スキルは近年注目されています。
2011年、アメリカデューク大学のデビッドソン教授は「将来、子どもたちの65%が今はない職業に就くだろう」と発言しました。つまり、未来には現在からはとうてい考えられないような仕事が生まれていると予測されており、今はまだ存在しない、情報化によって生まれるであろう新しい職業に適した、変化する世界に対応するために必要とされているのが21世紀型スキルです。
様々な能力モデルがありますが、どれが正解というわけではありません。自社の人材、タレントを表現するには、どのモデルが適しているか、ひとつではなく複数のモデルを適用するのか、またタレントマネジメントで人材をどう定義づけるか、何を分析するかという視点から考え、フレームワークなどを用い、手順に沿って、メンバーの能力を可見える化することをお勧めします。
タレントマネジメントでスキルを見える化する②~スキルマップを作る~
スキルセットとは、職種や役職において仕事を果たす上で必要とされる知識や能力群を指します。スキルセットを作る手順として、以下の3つのステップを踏みます。
ステップ1:経営目標を達成するために求められる人材像(人材要件)を定義する
ステップ2:求められる人材像に期待される役割(職種)を定義する
ステップ3:期待される役割(職種)に必要とされるスキルセットを定義する
ステップ1:経営目標を達成するために求められる人材像(人材要件)を定義する
経営目標やビジョンを書き出し、目標達成のために重要な要因(重要戦略、施策)を考えます。次に重要要因の深堀りし、必要なサービスや機能、人材を洗い出します。
完成した人材要件の定義が、経営目標や事業計画を担うためにあるべき姿、その必要性が表現できているか経営層へのレビューを実施し、最終チェックを行います。
ステップ2:求められる人材像に期待される役割(職種)を定義する
あるべき組織機能や人材要件を掘り下げ、自社に必要となる役割(職種)と役割別の機能(業務の分担)を定義します。役割と役割別機能の定義は、職務定義など人事処遇に関する規程やルールがあれば、そのまま適用してもよいですが、これから必要となる役割のあるべき姿(To Be)が検討されているか、見直し・改善を行うことが求められます。必要とする役割の名称や略称を決定し、役割が行うべき、期待されている業務の概要を設定します。
ステップ3:期待される役割(職種)に必要とされるスキルセットを定義する
ここでは、ステップ2で定義した役割(職種)で必要とされるスキル、知識の要件を整理します。前章で述べた能力モデルなどを活用し、必要とされるスキル、知識をどう定義するかをまず体系化することから始めます。体系は大項目、中項目、小項目と2、3階層くらいで分けるのが一般的です。
必要とされるスキル、知識の項目は、IT業界であれば、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が発表したi コンピテンシ ディクショナリ(iCD)のスキルディクショナリ、その他業種については、厚生労働省の職業能力評価基準が参考になります。
参考にするスキル標準や能力評価基準は網羅的にまとめられているため、すべてを取り込むのではなく、ステップ2で定義した役割(職種)で必要とするスキル、知識を選択して、自社独自のスキルや知識は体系に沿って言語化し、業務フローに沿って分類します。
タレントマネジメントでスキルを見える化する③~アウトプットのイメージを作る~
スキルマップとは、「業務で必要なスキルを洗い出し、従業員一人ひとりの持っているスキルを一覧にした表」のことです。企業によっては、力量表、力量管理表、技能マップと呼ぶこともあり、また海外では、Skills Matrixという呼び方が一般的です。
スキルセットを定義したら、次に行うのは、以下の2ステップです。
ステップ4:スキル基準(スキルの達成度)を策定する
ステップ5:スキルの棚卸を行い、マッピングする
ステップ4:スキル基準(スキルの達成度)を策定する
スキルを「持っている/持っていない」とスキルの有無だけで評価する場合もあれば、レベル 1〜4というように、スキルの達成度にいくつかの段階を持たせることもあります。どちらが正解という訳ではありませんが、スキルにレベルを持たせると、個人やチームの保有スキルがよりわかりやす くなります。
レベル | レベル基準 |
レベル4 | スキル、知識について指導ができる |
レベル3 | スキル、知識を使い、業務を独力で遂行できる |
レベル2 | スキル、知識を使い、指導を受けながら業務を遂行できる |
レベル1 | スキル、知識について学んだことがある |
スキル基準の数は、正解はなく、3から6段階で分けられることが多く、細かく設定するとスキルの達成度をより詳細に管理することが可能ですが、反面、評価をする際に、判断することが難しくなるため、4段階くらいで策定するのが良いでしょう。
例ではレベル1からレベル4と数字で表現していますが、アルファベット(S/A/B/C)や図形(◎/〇/△/×)といった表示もあります。
ステップ5:スキルの棚卸を行い、マッピングする
スキルセットとスキルの基準が完成したら、メンバーひとりひとりのスキルの棚卸を行います。棚卸の方法としては、3パターンが考えられます。
・本人が自身のレベルを自己評価する
・本⼈が⾃⾝のレベルを記⼊し、上司が評価・修正する
・上司が部下のスキルを評価する
スキルを評価するとなると、試験などを実施したほうが客観的ではないか?という議論が出てきます。確かに試験や資格取得を条件にするとより正確なレベル評価ができますが、デメリットとして運用面の負荷が大きくなります。
能力の見える化が主な⽬的と考えると、スキル基準に基づいて、初回は上⻑が評価していくのが 最も現実的と⾔えるでしょう。上司が部下のスキルを評価する中で、定義したスキルセット、スキルレベルの不備不足が出てきますので、それらをヒアリングし、チューニングすることでさらに現場にフィットしたスキルセット、スキルレベルに近づきます。
スキル評価の結果を個人別、個人ごとの結果を集約したチーム別にマッピングすることでスキルマップが完成します。スキルレベルごとに色分けをすることで、個人やチームの強み、弱みを把握しやすくなり、この一覧をヒートマップと言います。
まとめ
いかがだったでしょうか。
タレントマネジメントシステムで重要な情報、個人の能力を見える化するには、以下5つのステップで行います。
ステップ1:経営目標を達成するために求められる人材像(人材要件)を定義する
ステップ2:求められる人材像に期待される役割(職種)を定義する
ステップ3:期待される役割(職種)に必要とされるスキルセットを定義する
ステップ4:スキル基準(スキルの達成度)を策定する
ステップ5:スキルの棚卸を行い、マッピングする
タレントマネジメントシステムではこれらのステップをシステムの中で設定、評価できます。それぞれのタレントマネジメントシステムで特徴的な機能がありますので、詳しくは「タレントマネジメントシステムを徹底比較!注目の5つを比較検討しました!!」をご覧ください。
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