タレントマネジメントと人事戦略、戦略人事との関係

最近、テレビやネットなどを見ていると、「タレントマネジメント」という言葉と一緒に、「人事戦略」や「戦略人事」といった言葉をよく見かけるようになりました。一緒に見かけるので、意味合いが同じように感じてしまいますが、実はそれぞれ、意味が違います。

では、タレントマネジメントと人事戦略、戦略人事は、それぞれどのような意味で、どんな関係にあるのでしょうか?今回は、タレントマネジメントと人事戦略、戦略人事についてご紹介いたします。

タレントマネジメントと人事戦略、戦略人事の違い

タレントマネジメントと人事戦略、戦略人事。いずれも、「感覚ではなく、きちんと戦略的に」、というニュアンスを感じる言葉ですが、具体的にどんな違いがあるのでしょうか?まずはそれぞれの言葉の意味を知る前に、「戦略」という言葉の意味をおさえると、この後の話が分かりやすくなります。

・戦略
1 戦争に勝つための総合的・長期的な計略。スポーツの試合においても用いる。→戦術
2 組織などを運営していくについて、将来を見通しての方策。「経営戦略の欠陥」「戦略的人生論」「販売戦略を立てる」
(デジタル大辞泉 より)

ビジネスや経営においては、企業が長期的に成長するため、あるいは競合との競争に勝つための方向性や指針、シナリオといった意味合いです。似た言葉に戦術がありますが、戦術は戦略を実現するための具体的な手段や行動、施策を指します。
デジタル大辞泉には、「具体的・実際的な『戦術』」に対して、(戦略は)より大局的・長期的なものをいう。」と記載されています。

この戦略の意味を、頭の片隅に置いておきながら、次にそれぞれの言葉の意味を確認してみましょう。

・タレントマネジメント
1990年代にアメリカで提唱された人事戦略のこと。
企業で働いている従業員の能力やスキル、適性を発揮してもらえるように、採用や人材配置、人材育成などの人事施策を、戦略的に行う。

・人事戦略
人事業務、施策を改善し、企業や組織の生産性を高めるための戦略のこと。
例えば、採用という人事業務の生産性を高めるために、採用の手法を変えたり、企業活動が円滑に進み生産性が高まるように従業員の特性を考慮した人事異動を行ったりすることが人事戦略にあたる。

・戦略人事
人事戦略に経営戦略を連動させ、人的経営資源を適切にマネジメントする手法や考え方のこと。
経営目標を達成するために、戦略的に人事業務を行うことが戦略人事にあたる。

人事戦略と戦略人事はとてもよく似た言葉ですが、厳密には上記のように、意味合いが少し違います。
ただ、経営目標を達成するためには、企業や組織の生産性を高める必要があるケースが多く、人事戦略と戦略人事は切り離して考えることができません。そのためか、現実的には、混同して使われることが多く、その境界はあいまいになっています。

タレントマネジメントは人事戦略

さて、前述の通り、タレントマネジメントは人事戦略の中の一つです。
人事の業務は採用や人材育成、人事異動、人事考課など、色々ありますが、どの人事業務にも様々な手法があります。例えば採用一つとっても、求人媒体や人材紹介を使ったり、合同説明会に出展したり、リファラル採用を導入したりと、実に多くの手法が存在しています。

こうした、数ある人事業務の手法を、片っ端から取り組むのは、非効率で労力がかかり、場合によっては効果がないという事態に陥ります。そこで、どの手法を選ぶか、基準となる方向性や指針が必要です。
これが、人事戦略にあたります。
すなわち、人事戦略とは、企業や組織の生産性を高めるために、どんな施策を打っていくかの方向性を決め、指針に従ってどの手法を行うか決めていくことになります。

タレントマネジメントは、「企業で働いている従業員の能力やスキル、適性を発揮してもらう」という方針で、様々な人事業務の手法を決め、実行します。

例えば、従業員の異動。異動にも、ジョブローテーションを導入・実施したり、人事評価と連動した昇進・昇格を行ったり、色々な施策・手法があります。

タレントマネジメントという人事戦略を導入している場合、従業員の異動も「企業で働いている従業員の能力やスキル、適性を発揮してもらう」ための異動となるため、従業員情報や人事考課等と連動した配置転換・部署異動・昇進・昇格を行うことになります。

このように、タレントマネジメントは、「企業で働いている従業員の能力やスキル、適性を発揮してもらう」という方針で人事施策を決定・実行し、企業や組織の生産性を高めるという戦略なのです。

タレントマネジメントと戦略人事

ところが、タレントマネジメントは、戦略人事の側面も大いに持っています。
人事戦略と戦略人事は切っても切れない関係にあることは前述しましたが、そのため、タレントマネジメントも、明確に人事戦略、と、区切りにくい部分があるのです。

採用を例に挙げて考えてみましょう。例えば、新規事業立ち上げに際し、Aというサービスを開発・提供するためには、〇〇技術者という資格が必要だとします。

「企業で働いている従業員の能力やスキル、適性を発揮してもらう」という方針で人事施策を決定・実行するタレントマネジメントの考え方で採用するとしたら、まずは社内にいる○○技術者という資格を持っている従業員が、新規事業立ち上げ部門へ異動、ということが考えられるかもしれません。

また、○○技術者という資格保有者が社内に足りない、ということになれば、資格を持っている人を採用する必要があります。新規事業立ち上げの即戦力になる、資格保有者ですので、新卒採用の求人媒体という手段は選択肢から外れるでしょう。○○技術者という資格を持っている人へアプローチできる採用手段を選択します。

○○技術者という資格を持っている即戦力が、新規事業立ち上げ部門に揃えば、組織の生産性が高まり、Aというサービスの開発・提供の実現が近づくでしょう。
そう考えると、タレントマネジメントはやはり、人事戦略といえます。

しかし、新規事業立ち上げが経営戦略だった場合、どうでしょうか?

そして、「新規事業立ち上げのために、○○技術者という資格保有者を5人確保し、3年以内にAというサービスの提供を開始する」という経営目標があった場合、この目標達成のために異動・採用を行うので、上記の通り、タレントマネジメントの考え方で採用を進めても、戦略人事と言えるかもしれません。

このように、タレントマネジメントは人事戦略でありながらも、戦略人事ともいえる側面を持っています。しかし、企業の長期的な成長という観点から考えると、むしろタレントマネジメントは戦略人事の側面を持っている方が好ましくあります。なぜなら、企業活動を行うのは人であり、経営戦略を考える上で人事戦略を無視することはできないからです。

タレントマネジメント導入のポイントとしてよく挙げられるのが、「目的を明確にする」ことです。この目的が、経営戦略とリンクしていると、タレントマネジメントは経営戦略と人事戦略をつなぐ重要な役割を果たすことができます。

タレントマネジメントを、企業や組織の生産性を高めるための人事戦略と据え置いてもいいですが、戦略人事の側面も持たせ、経営目標を達成するための人事戦略とすることで、タレントマネジメントは真価を発揮するのです。
経営戦略達成のためにタレントマネジメントを機能させるポイントについて興味のある方は、「経営戦略の重要成功要因としてタレントマネジメントを考える」をご覧ください。

まとめ

いかがだったでしょうか。

今回はタレントマネジメントと人事戦略、戦略人事の関係性についてご紹介しました。
タレントマネジメントは人事戦略の一つですが、戦略人事の側面を持たせることで、真価を発揮します。ぜひ経営戦略とリンクさせ、タレントマネジメントを機能させることを意識してみてください。

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