ティーチング、つまり「教える」機会は、ビジネスの世界だけではなく、日常の生活においてもよくあることです。上司が部下に仕事を教えるとき、親が子に社会のルールや生活について何かを教えるとき、先生が生徒に勉強を教えるとき、皆さんも教えた経験があると思います。
どの場面も何かを教える人が上、教えを請う人が下といった上下関係があり、そこから生まれるデメリット、相手の主体性やモチベーションを奪うといった負の側面が取り上げられることが多く、またコーチングとの比較でティーチングは効果が低いかのような印象を持たれているかもしれません。しかし、ティーチング、コーチングとも、相手との信頼関係を築くという一番重要な前提を無視していては、人材育成の場ではうまく機能しません。本記事では、人材育成の場でどうすればティーチングの効果を高められるか、について解説します。
目次
人材育成で多用されるティーチングとは?
ティーチングは、英語の「teach」に由来し、先生が生徒に教えるように、経験豊富な人がその知識やスキルを、知識や経験が少ない人に伝え、考え方、やり方や手順などを教えることです。人材育成の場では、新人研修や入社後のオリエンテーションなどで多く使われている手法です。
一人で教えることが一般的ですが、課題を出し、演習をする場合に質問に答え、支援するサブ講師と言われる人をつけるチームティーチングで行うこともあります。
ティーチングは、教える側が答えを持ち、教える相手に伝える形式をとることから、大勢の人に対して、意識や知識、スキルの統一化が図りやすいというメリットがあります。また、解決に向けた方法を伝授することから相手側が即座に行動に移しやすいというのも指導する上でメリットと言えるでしょう。
半面、教える側が教えるべき内容や答えを持っていることから、教える人が知っている知識は経験しているスキルの範囲を超えることが難しいという点、また教える側からの一方向のコミュニケーションになりがちであるため、ティーチングのみで指導すると、相手が教える側の指示、行動に移す動機づけを待ってしまうという主体性やモチベーションを自ら生み出すことが阻害されてしまう可能性があるというデメリットがあることも覚えておきましょう。
ティーチングの機能を知り、人材育成に活かす
人材育成の目的は、「一人ひとりの能力を向上させることで、仕事の質を高め、顧客のニーズに応えられる人材を増やす」です。その手法のひとつであるティーチングは、「新しい学びを得ようとする人に対して、必要な情報や知識を共有し、相手が同じことをできるようにサポートすること」であり、「個人、チーム、企業が最大のパフォーマンスを発揮できるようになること」が目標です。
人材育成の場では、部下一人に対して教える場合、研修形式で教える相手が多数いる場合が想定されますが、ティーチングにとって重要なことが2つあります。
一つ目は、信頼関係を築くことです、研修形式の場合は特に時間も限られているため、短時間でという要素が加わります。皆さんも経験上、「この講師は分かりやすい」、「あまり内容が入ってこないな」といった教えられる側で感じたことがあると思います。信頼できる(と感じた)人から物事を教わると自然と「聴こう」とする姿勢が生まれます。つまり、何を話すか、ではなく、誰が話すか、が教えられる側にとっては大きなポイントなのです。
二つ目は、意識的に相手のモチベーションを上げる伝え方をすることです。教える側が一方的に伝えるコミュニケーションになりがちなティーチングでは、「こうあるべき」「こうすることが一番」といった決めつける言い方、これしか方法がないかのような伝え方をしてしまいがちです。そのような伝え方だと相手のモチベーションを下げてしまう可能性が高くなります。確かに教える側と教えられる側では、知識や経験の差がありますが、教えられる側にも考えや意見があり、それぞれに学ぶスタイルの違いがあるため、その違いを教える側が理解し、相手に合わせ、モチベーションを上げる伝え方がその後のパフォーマンス発揮にも影響します。
その上で、ティーチングの機能について考えてみましょう。
ティーチングには3つの機能があります。
① 教える
② アドバイスする
③ 質問する
① 教える
ビジネスマナーや言葉遣い、パソコンの使い方や社内のルールといった相手のスキルレベルが低く、ルールが決まっているものを伝えるときには、特に有効です。
② アドバイスする
相手が経験や知識不足が起因となる成長段階の浅い時期にどこに困っているのか、どうやってみたのかといったコミュニケーションを通じて、聴き、どうすればうまくできるのかを教える側の経験などを含めて解決に向けて助言します。
③ 質問する
相手が学び、経験を経て、ある程度、独力で担当の仕事をできている状態やレベルアップしたいと感じている、または教える側がステップアップさせたいという時期に、相手が自らどうしたいか、どう解決できるかを考えることを促すために、気づきを与える質問をします。
一人に対してティーチングする場合は、3つの機能を教える内容の難易度や相手の成長段階に応じて、使い分けることができますが、研修形式の場合は、これらを組み合わせ、同時に機能させることが求められます。
人材育成の場でティーチングの効果を高めるスキルを学ぶ
ティーチングの上手な人はどのようなスキルを身につけているのか、それをどう活用しているのか、今まで数多くの研修講師や講演を見てきましたが、いくつか共通したポイントがあることに気がつきました。ここでは、ティーチングの効果を高めるために、その気づきから得た1対1でティーチングを行う場合に活用できるスキルをお伝えしたいと思います。
①VAKモデル
VAKモデルとは、心理学NLP(神経言語プログラミング)で相手の優位五感に合わせるモデルのことで、人は何かを経験したときに、五感のうち、どの感覚を優先的に使い、表現するかというものです。五感のうち、V(Visual、視覚)、A(Auditory、聴覚)、K(Kinesthetic、体感覚(触覚、嗅覚、味覚))の頭文字をとっています。
相手が普段の会話の中で、この3つのうち、どの言葉を優先的に多く使うかを聴き分け、同じ感覚の言葉に合わせ伝えることで、相手は「話が分かりやすい」と感じ、「この人にはわかってもらっている」「この人との会話は心地良い」とコミュニケーションがスムーズになる効果があると言われています。
②ラポールスキル
ティーチングでは、短時間に信頼関係を築くことが重要とお伝えしましたが、それが出来ている人の共通点として、「相手に合わせる」ことから始めていることが挙げられます。ラポールスキルとは、相手に合わせる3つのスキルのことです。ひとつは、「ミラーリング」、鏡のように相手の姿勢、表情と同じように自身の姿勢、表情を合わせること。いきなり合わせるのではなく、相手の変化に気づいたら、ゆっくり合わせることがポイントです。ふたつめは「マッチング」、これは相手の話し方に合わせていきます。声のトーン、大きさ、話すスピードを合わせることで相手が安心してコミュニケーションをとる環境が整います。最後に「バックトラッキング」、オウム返しとも言いますが、相手の言葉や感情を繰り返し、返答することで相手に話を聴いてもらっているという安心感を与えることができます。
2つ以外に、LAB(ラブ、Language And Behaviorの略)プロファイル、ポジションチェンジ(相手の視点に立った言葉で伝える)といったスキルもあります。ティーチングにおける効果だけではなく、普段のコミュニケーションのスキルアップにも活用できます。興味のある方は、NLPや上記のキーワードを検索して、さらに学びを深めてください。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
人材育成においてティーチングは多用されますが、単に一方的に教えればOK、では、教えられる側の状態や学びのスタイルを無視してしまいモチベーションを低下させる要因になってしまいます。「教えることは学ぶこと」と自覚し、教える側も相手との信頼関係を築く、モチベーションを上げる工夫を考え、教える内容をしっかりセットアップした状態で、臨むことが大切です。
研修形式の場合では、筆者自身が意識していることは、同意を取りにいく(集団で「そうだよね」という反応を得て、共通点を持つ存在に感じてもらう)、信頼関係を築けるまで極力断定の言葉は使わない(「~をお勧めします」と相手が選択できる言葉遣い)、グループに影響がある人がいたら、その人を味方にする、1センテンスで1人を見ながら話す、といったことでしょうか。
働き方だけではなく、人の在り方や価値観、国籍など人も多様化しています。ティーチング、教えることも今までのスタイルだけではうまく機能せず、貴重なお互いの時間、そして何よりパフォーマンスを上げる機会を無駄にしてしまいます。
ティーチングは、相手との信頼関係を築き、意識的に相手のモチベーションを上げる伝え方をするという重要なポイントをアップデートし、「新しい学びを得ようとする人に対して、必要な情報や知識を共有し、相手が同じことをできるようにサポートすること」がうまく機能することになれば、人材育成の効果もアップするのではないでしょうか。
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