ジョブ型人事制度の導入と人材育成で押さえておきたい3つのポイント

世間の想像をはるかに超えて長く続いているコロナ禍。情勢が目まぐるしく変化する中で、企業体制の変更も余儀なくされました。テレワークの導入もコロナ禍によって取り入れられた新しい働き方のひとつで、今では多くの企業で実施されています。それに伴い今までの社内制度をはじめの見直しが必要になったものが多くあると思います。その中で最近注目されているのが人事制度です。
直接会う機会が減った環境で、これまでと同じ評価制度が適用しにくくなった今、どのような人事制度にシフトしていけばよいのでしょうか。
本記事では、注目されているジョブ型人事制度と人材育成の必要性をご紹介していきます。

ジョブ型人事制度とは?

これまでの日本の人事制度はメンバーシップ型の人事制度が主流とされてきました。
「日本型雇用」とも呼ばれており、新卒一括採用、終身雇用、年功序列などが特徴として挙げられます。人柄などの人物像を重視して採用し、社内で様々な職種・仕事内容を経験させ、本人の意見も取り入れつつ適性を見極めながら会社内で育成をしていく方針です。また、早期退職を防ぐために勤続年数に応じた退職金を付与するなど終身雇用のように長く務めてもらうことを目的とした仕組みです。

しかし、テレワークが普及し同じプロジェクトのメンバーにもオンライン上で会うことが多くなり「今までは一緒に仕事をしていればメンバーの頑張りを目の前で見ることができていたけど、テレワークになってそれぞれのメンバーが何をしているかが見えにくくなってしまったから、仕事の結果以外で何を評価したらいいか悩んでいるんだ。」と頭を悩ませているリーダーの方もいらっしゃいました。

そこで注目を浴びているのがジョブ型の人事制度です。
企業での業務や役割を明確にしたうえで、必要な能力やノウハウ、スキルを持った人材を採用、配置する制度となっており、業務内容に応じた結果で評価がしやすく、テレワークという環境下での評価制度に適していると言われています。

しかしここで勘違いされがちなのが人材育成面です。
従来のメンバーシップ型は、人物像を中心にした人事制度のため、職務遂行に必要なスキルや能力、経験などをOJTや研修を通して、自社の中で育てていく必要がありました。
それに対しジョブ型では、すでに職務遂行に必要なスキルや能力、経験を持っている人を採用・配置していくので、人材育成は必要ないと思う方も多いのではないでしょうか。それは大きな間違いで、ジョブ型の人事制度であっても人材育成は重要になってきます。

ジョブ型人事制度における人材育成の必要性①~自社固有のスキルやノウハウの伝承~

ジョブ型雇用で採用された人の場合、能力面が重要視されているため職務遂行に必要な知識、能力、経験はあります。しかし、新卒入社の人など以前から会社に在籍している人と比較すると、職務遂行のレベルは高くても、会社特有のことまで理解できている人は多くありません。

そのため、自社ならではのノウハウや、固有のスキルなどを知らずに職務に取り掛り、せっかくの能力を生かすことができない場合があります。つまり、自社の強みを生かしてくれる働きができないということです。

ある企業のプロジェクトリーダーの方から経験談として「最近他社から優秀な人をヘッドハンティングできたのに、いざ一緒に働いてみたら求めていた半分ぐらいの結果になってしまったんだ。振り返りの時に個別で話を聞いてみたら前社と仕事のやり方が全然違って、直接聞く機会もなくて、どうしていいかわからなかったって言われちゃったんだよ。もっと早く気が付いてあげればよかった。」という話をうかがいました。
どんなに個人の能力が高くても、自社のやり方やノウハウ、固有のスキルや強みを学ぶ場がなければ十分な力を発揮できずに終わってしまいます。そのような状況を防ぐためにも、研修などで改めて自社の強みを理解したり、知ることのできる機会を会社側が設けることで、能力を発揮できるよう手助けをすることができます。
しかし、いくら重要とはいえ、せっかく能力を重視して採用をしたから、なるべく時間をかけたくないという意見も出てくると思います。その場合は、職務遂行の能力は持ち合わせているので、OJTなど、業務の中で伝承しながら育成していくやり方もひとつの方法です。

いずれにしても、職務遂行の知識やスキルだけ持っていても会社のことを理解していない場合、活躍できる機会を逃してしまうので、自社で活躍できるようになるための人材育成は重要になります。

ジョブ型人事制度における人材育成の必要性②~スキルはすぐに錆びる~

昨今VUCA時代と呼ばれて久しく、コロナ禍により一層激動の時代を迎えています。その著しい変化に伴い、持っている知識やスキルが急に役に立たなくなる時代が知らぬ間にすぐにそこまで迫っていることもあるのです。

先日とある企業の優秀な営業の方に会ったときに話を伺うと「最近全然契約が取れないんですよ。コロナ禍で自分の強みだった対面営業や接待が難しくなって受注件数が伸び悩んでるって自覚はあるんですけど、次にどう繋げたらいいかがわからなくて……。」と悩まれているようでした。
これまで同じ営業スタイルで順調に来ていた彼は、ほかの方法を取り入れるなど新しいことにチャレンジしてこなかったため、大きく変わった環境にうまく適応することができず取り残されてしまったのです。

これはジョブ型雇用で採用された人も陥る可能性があります。
「採用された時点」では当然職務遂行に必要な知識、能力、経験を持って入社してきます。しかし、どんなに優秀な知識やスキル、経験を持っていても、現状に満足して自分を磨かなくなってしまうと錆びついてしまい、せっかく重要視した能力が使い物にならなくなってしまうのです。
せっかくコストをかけて採用した人材が活躍できずに悩む姿は見たくないと思います。
状況の変化に取り残されてしまう人材を減らす工夫として企業側からの手助けが必要になります。
日ごろからそれぞれが自分磨きできるよう、社外と交流できる場づくり、任意で学べる講習会やEラーニングなどを会社が提供できるような体制づくりが大切になります。

ジョブ型人事制度における人材育成の必要性③~職務とスキルの明確化~

企業が成長するためには自社の強みやこれから力を入れなくてはいけない部分を認識することも重要になります。そのためには、精度の高い洗い出しが求められ、様々な手段を用いて日々努力されているかと思います。
例えば、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が提供しているi コンピテンシディクショナリ(iCD)は業務を見える化し、必要な人材を明確化する辞書として活用することができます。
ジョブ型の人事制度を導入するうえで必要なことは、自社ビジネスにおいてどのような職務とスキルが必要で、不足しているところはどこかを明確にすることです。

先日ある企業の採用担当の方から「この間あるプロジェクトを進めるうえで適材と思える人を採用できたと思っていたんです。でもふたを開けてみたら意外と社内でも似たような経験をしている人がいて……。私全然知らなかったんです。少し無理をして採用したから、もっと社内に目を向けるべきだったなと思いました。」と少し後悔をした話を伺いました。
職務とそれに必要なスキルの洗い出しを行うことができれば、社内で不足しているスキルが自然と浮かび上がってきます。すなわち、社内にいる既存の人材に何が足りないか、何があれば進んでいない職務遂行ができるかを明確にでき、足りない人材を採用するというジョブ型雇用だけでなく、既存の社員の人材育成までも的確に進めることができます。
日本では終身雇用制度が主流だったため人材の流動性はまだ低く、少子高齢化の影響もあり、足りない人材を採用することは容易なことではありません。
ジョブ型人事制度を採り入れる準備として、職務とスキルの見える化を進めることができれば、同時に社内の優秀なリソースである既存社員を有効に人材育成することができるし、ジョブ型雇用で採用した人材の職務の変更が必要な場合でも、的確な配置転換を行うことができます。

採用コストが他国と比較したときにまだまだ高い日本市場では、既存社員を有効に活用する人材育成の環境を整えておかなければ、ジョブ型の人事制度だけではとても費用対効果に見合わなくなります。
そのためメンバーシップ型の人材制度で一定数の人材を確保するとともに、並行してジョブ型人事制度で必要な人材を的確に採用していく体制を作りましょう。

まとめ

いかがだったでしょうか。

日々目まぐるしく変わる情勢の中で、優秀な人材を会社に集めるためにジョブ型雇用の導入が注目されていますが、その準備としてまずは社内に目を向けて現状を的確に把握することが大切です。
職務とそれに必要なスキル、同時に社内にいる人材のスキルも洗い出すことによって、どのような人を採用しなければいけないのかを見える化することができ、ジョブ型の人事制度を用いて最適な人材を確保できる可能性が高まります。

しかし、企業を成長させることを目標とした時、最適なメンバーをそろえることがゴールではありません。日々変化していく市場の中で活躍していく人材を育てていくためにも、会社が学びの環境を提供できる体制づくりが必要になります。

まだまだ人材の流動性が低い中、確保した人材で最大限の力が発揮できる組織作りを目指していきましょう。

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